AIDMA / AISAS
AIDMA / AISAS
AIDMA(アイドマ)は、消費者が商品を知覚し購買に至るまでの心理プロセスを示す古典的な行動モデルであり、Attention, Interest, Desire, Memory, Actionの頭文字を取ったものである。これに対し、AISAS(アイサス)はインターネット普及後の情報探索や共有行動(Search, Share)を取り入れたモデルであり、現代のデジタルマーケティング戦略の基盤として広く活用されている。
概要
AIDMAとAISASは、マーケティングや広告戦略において、消費者が製品やサービスを認知してから購買に至るまでの心理的、行動的なプロセスを段階的に捉えるための根幹的なフレームワークである。これらは時代背景に応じて進化しており、特にデジタル環境下での消費行動を理解し、戦略を構築する上で不可欠な概念となっている。
AIDMAモデルは、主にマスメディアが情報伝達の中心であった20世紀初頭に提唱された、伝統的な消費者行動のプロセスを示す。構成要素は以下の5段階である。
- Attention(注意): 広告などによって製品やサービスの存在を初めて認識する段階。
- Interest(関心): 認識した製品に対し、具体的な興味を抱く段階。
- Desire(欲求): 製品の利点や必要性を理解し、「欲しい」という強い欲求を抱く段階。
- Memory(記憶): 購買の機会が訪れるまで、その製品情報を脳内に保持する段階。
- Action(行動): 実際に店舗を訪れたり、購入手続きを行ったりする段階。
このモデルは、消費者の購買行動がAttentionからActionへと線形(一直線)に進むものとして捉えられ、特にマスメディアを通じた広告の効果測定や販売促進策を構築するための基盤として長らく使用されてきた。
これに対し、AISASモデルは、21世紀に入りインターネットとソーシャルメディアが普及した後の、新たな消費者行動様式に対応するために開発された。電通によって提唱されたAISASは、AIDMAの基本的な流れを継承しつつ、Memoryを削除し、SearchとShareというデジタル環境特有の行動段階を組み込んでいる。
- Attention(注意)
- Interest(関心)
- Search(検索): 関心を持った製品やサービスについて、インターネット検索エンジンや比較サイト、SNSなどを利用して能動的に情報を収集する段階。
- Action(行動)
- Share(共有): 購買後、その製品の使用体験や評価をブログ、レビューサイト、ソーシャルメディアなどで他者と共有する段階。
AISASの登場は、購買行動が単なる終点ではなく、新たな情報発信の起点(Share)となることを明確に示した点で画期的である。このモデルは、消費者自身がメディアとしての機能を持つ現代において、企業がデジタルチャネルを通じて戦略を展開する際の重要な指針を提供している。
具体的な使用例・シーン
AIDMAおよびAISASモデルは、マーケティング戦略の立案や広告予算の配分、そして施策の効果測定において具体的なロードマップとして活用される。
AIDMAモデルは、依然として認知度が重要視される高額商品(例:自動車、住宅)や、マスメディアを通じた広範なブランディングを主体とする企業戦略において有効である。例えば、テレビCMを大量投下してAttentionとInterestを引き出し(認知拡大)、ショールームや店舗での体験を通じてDesireを高め、キャンペーン期間に合わせてActionを促すといった、伝統的なプロモーション計画はこのAIDMAの枠組みに基づいている。Memoryの段階を強化するためには、ブランドイメージの継続的な露出や、繰り返し訴求力の高いメッセージを伝達する戦略が求められる。
対してAISASモデルは、Eコマース(EC)やデジタルサービス、特に口コミやレビューが購買に大きな影響を与える製品カテゴリ(例:化粧品、ガジェット、旅行)で主要な分析ツールとなる。製品の情報をインターネット上に豊富に用意し、消費者がInterestからSearchフェーズに入った際に、公式サイト、ランディングページ、レビューサイトなどで適切な情報を提供することが鍵となる。具体的な施策としては、ウェブサイトのUI/UX改善、製品レビューの積極的な収集と公開、SNS上でのインフルエンサー活用などが挙げられる。特にShareの段階は、現代における最も重要なマーケティング資産の一つであり、ポジティブな共有を促進するためのアフターフォローや顧客コミュニティ形成が重要視される。AISASは、購買後のロイヤリティ構築と、それが次の消費者のAttentionを喚起するループ(情報の渦)を生み出す戦略を考える際に極めて有用である。
メリット・デメリット (特徴)
AIDMAとAISASはそれぞれ異なる時代の消費者行動を反映しているため、その適用範囲と特徴には明確な違いが存在する。
AIDMAの主要な特徴と限界
AIDMAの最大のメリットは、そのシンプルさと歴史的な実績にある。モデルが単純であるため、マーケティングの基本概念として初学者でも容易に理解でき、長期的なブランド構築戦略や、限られた情報源(マスメディア)に依存するキャンペーンの効果測定が比較的容易である。しかし、デジタル時代の複雑な行動や、情報共有行動を捉えられない点が最大のデメリットである。現代の消費者はInterestを感じた直後に、記憶に頼るよりもまずSearchを行う傾向が強いため、AIDMAの線形的な前提が現実の行動と乖離しているケースが増えている。
AISASの主要な特徴と限界
AISASのメリットは、インターネット時代における情報探索(Search)と情報共有(Share)という、購買プロセスにおける決定的な行動を含んでいる点にある。このモデルは、ウェブサイトへの流入経路分析やSEO戦略、SNSマーケティングといったデジタルマーケティング戦略の策定に直結する。特にShareの段階を組み込むことで、口コミやレビューが新たな消費を促進する「クチコミ効果」を戦略に組み込むことができる。一方、デメリットとしては、Share行動が必ずしも購買後のポジティブな評価とは限らず、ネガティブな情報拡散リスクも同時に考慮する必要がある点が挙げられる。また、感情的な側面(Desire)がAIDMAに比べて薄れる傾向があり、単なる情報処理プロセスとして捉えられがちであるという批判もある。
関連する概念
AIDMAやAISAS以外にも、時代や製品特性、消費者心理の進化に合わせて、様々な消費者行動モデルが提唱され、利用されている。これらのモデルは、特定のメディア環境や購買心理に特化している。
AIDA (アイダ): AIDMAの原型であり、Memoryの段階を含まないモデル。特に広告効果測定の初期段階で使われた。Attention, Interest, Desire, Actionの4段階から成る。
AMTUL (アムツール): 購買後の継続的な関係性を重視したモデル。Attention, Memory, Trial (試用), Usage (使用), Liking (好意) の頭文字を取っており、特にリピート購入や顧客ロイヤリティが重要な消費財の分野で活用される。
DECAX (デキャックス): AISASの登場後、さらにソーシャルメディアが進化し、企業と消費者の双方向コミュニケーションが主流になった環境を反映したモデル。Discovery (発見), Engage (関係構築), Check (確認), Action (行動), X-experience (体験・共有) を含む。特にコンテンツマーケティングやファンベースマーケティングとの親和性が高い。
SIPS (サイプス): 主にSNS上での行動変容に焦点を当てたモデル。Sympathize (共感), Identify (確認), Participate (参加), Share & Spread (共有・拡散) のプロセスで、共感やコミュニティ参加が購買に至る重要なトリガーとなることを示している。
これらの多岐にわたるモデル群は、消費行動を完全に網羅する単一のフレームワークは存在せず、複雑な現代の市場においては、マーケターが自社の製品やターゲット層、利用するメディア特性に応じて最適なモデルを選択し、複数のフレームワークを組み合わせて戦略を構築することが求められるのである。
由来・語源
AIDMAモデルは、アメリカの販売促進・広告研究者であるサミュエル・ローランド・ホール(Samuel Roland Hall)が、1920年代に自身の著書『Retail Advertising and Selling』の中で体系化した概念である。これは、当時の心理学的な知見に基づき、消費者が広告メッセージに反応してから購入に至るまでのステップを明確に定義したものであり、近代マーケティングの古典的な基盤を築いた。Memory(記憶)の要素が含まれているのは、衝動買いが少なく、情報の入手経路が限られていた時代において、購買機会まで情報を保持し続けることの重要性を示唆している。
一方で、AISASモデルは、デジタル化が急速に進展し始めた2004年に、日本の大手広告代理店である株式会社電通によって提唱・登録商標化された。情報通信技術(ICT)の発展に伴い、従来のAIDMAモデルでは捉えきれなくなった「能動的な情報探索」と「購買後の情報発信」という二つの行動を明確に組み込む必要性から開発された経緯を持つ。特に、GoogleやYahoo!といった検索エンジンが一般化し、ブログや掲示板が情報源として機能し始めた時期に、AISASはデジタル時代の消費者行動を分析するための主要なフレームワークとして広く定着した。AISASは、日本のマーケティング業界が世界に発信した数少ない重要なフレームワークの一つとして認知されている。このモデルの登場以降、企業は単に認知度を高めるだけでなく、消費者が検索した際に企業の公式情報や関連レビューが適切に表示されるよう、SEO(検索エンジン最適化)戦略を強化することが必須となった。
使用例
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関連用語
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